ジョーカーって
私だったのか!
−天野さんが書かれる歌詞はいろいろな主人公が登場するし、ドラマチックであり、ファンタジックですよね。それは先にタイトルがあって、そこから派生したイメージで書いていくから、そういう物語的なものになるのですか。
天野:メロディーを考えてないのにタイトルはありますからね。それは自分が感じるイメージをタイトルにしているんだと思うんですけど、そこから派生していくので…「Devil
Flamingo」なんてすごく悪そうなフラミンゴですよね(笑)。でも、「JOKER JOE」は、私、小さい頃からジョーカーというのはジョーという名前の人だと思っていたんですよ。で、この歌詞を書き終わって「違うよ」って言われて「えっ!そうなの!?」みたいな(笑)。そういう勘違いをして書いたというのもありますね。でも、「JOKER
JOE」はジョーカーの歌のように聴こえて、私のテーマソングのようにも聴こえるんですよ。「人形」も小さい頃からの自分の葛藤とか生き様が表せたので、すごく私のテーマソングだと思ってたんですけど、それをもう少し分かりやすく説明したもののような気がしますね。…というのを、歌詞を書き終わって感じました。52人の集団の中に入れなくて、ちょっとハミ出してた人ということで、「ジョーカーって私だったのか!」って(笑)。
−そういう意味では「Stone」や「砂糖水」もリアルな部分を持っていますよね。
天野:「Stone」は「自分にとってロックを感じる瞬間って何?」みたいなことを考えていたんですけど…ロックってすごくカッコ悪いことを言えちゃうものだと思うんですよ。弱音を歌にしてみたりとかね。だから、最初は「Rock」という仮タイトルで作ったんですけど、そんなに大きな岩でもないなと思って、砕いて「Stone」にしたんです(笑)。私の人生は岩みたいに大きなものじゃなくて、その辺に落ちているような小さな石だよって感覚でしたね。あと、歌詞はすごく冷静に作るんですけど、今回は言葉遊び的なものも含めて、「これもアリじゃないかな?」というのがあったんですよ。そういう部分でも「Stone」は、まったりとした感じの曲なのに、そこにすごくロックな言葉入れてみるのもアリかなと思って書いたところがありますね。奇麗にまとめすぎないというか。
「砂糖水」はすごく早い時期から、このタイトルの曲を書きたいと思ってて、ラフなんですけど物語も思い浮かべてたりしたんですよ。そこからもう1回イメージを膨らませていったというか…昆虫採集家に対するカブト虫の気持ちみたいところが世界観としてあったんです。例えばマクドナルドのフライドポテトやケンタッキーのフライドチキンって匂いで分かるじゃないですか。で、なぜその時に食べたくなるのかと考えたら、味を確認したいからなんだなって。思い出す時って、匂いが先行だと思うんですよ。匂いがきっかけになって思い出す。そういうものを書きたかったんです。だから、実際に砂糖水を作ったりしましたよ。砂糖水は温めないと匂いがしないということが分かりましたね(笑)。
−あと、気になったのが「博士と孔雀」なのですが。
天野:今年はファッションで言うなら、サファリとゴスがちょっと来ていたんですよ。もうすぐフェイドアウトすると思うんですけどね(笑)。で、サファリのイメージはフラミンゴで、ゴスは孔雀だなって。「Devil
Flamingo」でフラミンゴは書いたから、絶対に“孔雀”っていう曲を書きたかったんですよ。それで“孔雀”って書き始めたら、なぜか途中で“博士”が出てきたんです。しかも1行目で。だったら、“博士”も入れないといけないと思って、「博士と孔雀」にしたんです(笑)。
−博士が登場したことで、イメージしていた物語も変わっていったんですか。
天野:そうですね。メロディー優先では考えていったんですけど、ちょっと童話のような感じで、“どうしても伝わらない思い”みたいなものを書きたいと思って…孔雀は言葉が喋れないから、「孔雀ってどう鳴くんだろう? きっと獣の声なんだろうな」とか、孔雀の気持ちを考えつつ書きました。どんなにきらびやかな翼を広げても、それを見てもらえなかったら悲しいじゃないですか。こういう孔雀の気持ちが分かるっていう人もいるだろうなって。
“カッコ悪さ”というのが
テーマとしてありました
−今回のアルバムは今まで以上にボーカルスタイルが曲単位で違いますよね。
天野:きっかけは「翡翠」でオーケストラをバックに歌ったことだと思うんですけど…オーケストラに合う声ということで「どう歌ったらいいんだろう?」と思ってたんですね。ずっとリズムに合わせて歌ってきたらから、テンポがフリーなところで歌うことの難しさを感じつつ、声の持って行き方というか…その世界に溶け込みたいって意識しながら歌ってたら、それが楽しくなってしまったんです(笑)。だから、「この曲はこういうふうに歌おうかな?」って楽しんでました。
−個人的には「Devil Flamingo」の噛み付くようなボーカルが印象的でしたよ。
天野:その後に「博士と孔雀」を聴くと「えっ?」ってなるでしょうね(笑)。だから、そういうところをワザと楽しみながらやってました。「Devil
Flamingo」「JOKER JOE」「パレード」はすごくライブに近い歌い方をしてますね。ライブよりも三歩ぐらい引いている…さすがにライブのように爆発的ではないんですけど、私のライブが少し見えるような歌い方を意識しました。他にも「ライブではこの声はマイクに通らないかもしれないけど、作品だったらアリだよね」というのもあったりしますし…それが「博士と孔雀」や「砂糖水」だったりするんですけど。あと、コーラスも楽しかったですね。今回は重ねている楽器が少ないというか、前の3枚のアルバムに比べて音数は少なめにしているんですよ。
−ロック色を強くするために?
天野:その方がギターサウンドがガーンときますからね。だから、「これ以上は音を詰め込んではいけないぞ」と思いながらやってたんで、その分、コーラスで埋めたりして…それも面白かったです。「博士と孔雀」のコーラスはすごく難しかったんですけどね。
−そんな今回のアルバムのタイトルが“A MOON CHILD IN THE SKY”。これは“天野月子”を英訳したものですよね。
天野:そうです。今回のアルバムを作ろうとした時に、このタイトルが浮かんだんですけど、そこに縛られるのは嫌だったんです。自分の名前を冠にするとなると、すごく気合いを入れないといけないというか、気負うものがあるじゃないですか。それがすごく邪魔なもののような気がしたんです。
−「これが天野月子です」というものを作らないといけなくなりますものね。
天野:そういう変な力が入るのは嫌だったんです。だから、まず曲を書いてみて、最終的に相応しいと思ったのなら、このタイトルにすればいいかなって。で、結果、相応しいと思ったと。『天龍』は私の感情というか、「私はこういう気持ちになったりするよ」という一瞬の集まりだとすると、今回のアルバムは「私はこういう性格だったりもするよ」というものになったかなと思いますね。「Devil
Flamingo」「JOKER JOE」では結構サドだったりする一面が出ているし…休んでいた間に『桃太郎電鉄』というゲームが事務所内でブームだったんですよ。で、今でもたまに呼ばれたりするんですけど、私がいると場が荒れるらしんですよ。喧嘩口調になったりして(笑)。
−姑息な手とか使うから?(笑)
天野:ちっとも姑息じゃないですよ。姑息じゃなくて、平然と「本当にやるんですか?」みたいなことをやってる(笑)。『桃太郎電鉄』ってすごく性格が出るじゃないですか。「今、そういうことを僕にやらくても!」みたいなことを容赦なくやるんで、私がいると血も涙もない戦いになるんで、「やっぱり、私ってそうなのか!」って(笑)。そういういろいろな一面が今回のアルバムにすごく出ていますね。
−では、作品的にはどんなアルバムに仕上がりましたか?
天野:80'sのフレーズてんこ盛りで、並べて聴いた時の80'sの香りが『ベストヒットUSA』みたいですよね(笑)。だから、80年代の音楽をすごく聴いてきた人にも、そうじゃない人にも「80'sって結構面白いことをしてたんだよ」というのが伝わればいいなと思いますね。
−そういう意味でも、ロック本来の持つ力強さが出ていますよね。
天野:ロックがすごく力を持ってた時代ですからね。
−あと、いい意味でのダサさと。
天野:いい意味でのカッコ悪さがアリだった時代ですよね。だから、『天龍』の時は“だらしなささ”が自分の中のテーマとしてあったんですけど、今回のアルバムは“カッコ悪さ”というのがテーマとしてありましたね。最初にタイトルを“A
MOON CHILD IN THE SKY”にしようと思った時に、「私ってどんな曲を出しているんだろう?」というのを客観的に考えたら、「結構、カッコ悪いことをしてるな」って思ったんですけど、曲というのは本来そうであるべきじゃないかなって。音楽というのはカッコいいことを並べ立てるよりも、私は「ああ、これはカッコ悪いな〜。でも、こういうカッコ悪いところって誰にもあるんじゃないかな?」っていうものが伝えていけるものだと思いますからね。
−そして、11月にライブが控えているのですが、今回のアルバムはライブの絵が見えますよね。
天野:ライブをすごくやりたいアルバムですね。毎回そう思うんですけど、「ライブだとこの曲はどうなるんだろうな?」って考えたりするんですよ。例えば『天龍』の「月」なら「ライブでは、どんなアタックをしていけばいいのかな?」って。でも、今回は単純にライブでやりたい曲ばかりなので、かなり楽しみですね。今までずっと定位置で演ってきた曲を入れ替えたりもできるから、そういう意味でも11月はこのアルバム中心のライブになるかなと思ってます。
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